東京高等裁判所 昭和58年(ネ)990号 判決
一 控訴人が本件特許権を有していること、本件明細書の特許請求の範囲の記載が請求の原因2のとおりであること、被控訴人が、業として、本件製品(ただし、本件製品の受台5が着脱自在であり、これに代えて他の形のものを装着することができることについて被控訴人の留保がある。)を製造、販売していることは、当事者間に争いがない。
二 右争いのない本件明細書の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明は、白煙を噴出させ又は漂わせるドライアイスによる白煙発生(いわゆる「ドライアイスの白煙発生」)装置に関するものであつて、
(1) ドライアイス室と、
(2) ドライアイスの融解温水用加熱装置を有する温水室と、
(3) 該温水室の温水を所望の時に所望の一定量前記ドライアイス室のドライアイスに与えてドライアイスの白煙を発生するための装置と、
(4) 前記ドライアイス室の上部に設けた受台
とを備え、
(5) 前記ドライアイス室の上部に多数の白煙案内パイプを連通させると共に、これらパイプの総開口面積を、白煙を発生する前記ドライアイス室の横断面積よりも小さくし、且つ前記受台の周囲部に前記パイプの外端を開口したことを、発明の構成に欠くことができない事項すなわち必須の構成要件とするものであることが認められる(構成要件(3)が被控訴人主張の(3)´のように限定して解すべきものであるか否かの点は措く。)。
したがつて、本件発明は、右構成要件(5)から明らかなとおり、ドライアイス室に発生した白煙をドライアイス室に連通させた多数の白煙案内パイプで案内し、受台周囲部の開口から噴出させ又は漂わせること、つまり、ドライアイス室から受台周囲部の開口まで白煙を案内する手段として「白煙案内パイプ」を設けることを必須の構成要件とするものであるといわなければならない。
三 しかして、本件製品を示すものであることに争いのない(ただし、前記一記載の留保がある。)別紙目録により、本件製品の構成を本件発明の構成要件の分説と対応させて分説すると、本件製品は、白煙を噴出させ又は漂わせるドライアイスによる白煙発生装置に関するものであつて、
(1) ドライアイス室4と、
(2) ドライアイスの融解温水用加熱装置を有する温水室3と、
(3) 該温水室の側面下部とドライアイス室4の側壁上部とを連通させ温水を所望の時に所望の一定量ドライアイス室のドライアイスDに供給するための吸引ポンプ6及び湯送管7並びにドライアイス室4の底面と温水室3の上部とを連通させドライアイス室内の水を温水室に戻すためのコツク8を介装したドレン管9と、
(4) 前記ドライアイス室4の上方に設けた受台5とを備え、
(5) ドライアイス室の上部と、内部に空洞13、上面周囲部に多数の白煙噴出孔14を有する受台5とを接続管10、12により接続すると共に、該白煙噴出孔14の総開口面積を、白煙を発生する前記ドライアイス室の横断面積よりも小さくし、且つ前記受台の周囲部に前記白煙噴出孔14の開口を臨ませたこと
という構成からなるものと認められる。
四 そこで、本件発明の構成要件と本件製品の構成とを対比すると、本件製品は、白煙を案内する多数の白煙案内パイプを欠如するものであるから、他の点はさて措き、本件製品の構成(5)が本件発明の構成要件(5)を充足するものでないことが明らかである。
控訴人は、本件製品の多数の白煙噴出孔14は、本件発明の白煙案内パイプと同様、ドライアイス室の上部に連通し、ドライアイス室に発生したドライアイスの白煙を孔の数に分岐して受台周囲部に形成した開口により噴出させ又は漂わせるものであるから、本件発明の白煙案内パイプと同一のものということができる旨主張する。
しかしながら、通常の意味において、「白煙案内パイプ」の白煙を「案内する」とは、白煙を「一つの個所から他の個所へ導く」ことを、「パイプ」とは、「管」ないし「導管」のことを指すものであることは当裁判所に顕著な事実であるところ、成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報。別添のとおり。)によれば、本件明細書において、「白煙案内パイプ」の語が特に右の通常の意味以外の意味で用いられていることを示す記載は全くなく、実施例としても、ドライアイス室の上部に一端を連通させ、ドライアイス室の上方に設けられた受台の周囲部で他端を閉口させ、白煙をドライアイス室から受台周囲部の開口まで導く、まさに、白煙を導く管のみが示されていることが認められるから、本件発明にいう白煙案内パイプは、前記通常の意味に解する外はない。そして、別紙目録によれば、本件製品における白煙噴出孔14は、内部に空洞13を有する極めて扁平な円柱状の受台の上面に穿たれた孔であつて、ドライアイス室に発生し接続管10、12を経て空洞13に充満した白煙を外部に出すものにすぎないことが認められ、「白煙を導く」ものでも、「管」でもないから、仮に本件発明の白煙案内パイプとの間で控訴人主張のような共通点があるといえる余地があるとしても、右白煙噴出孔14をもつて本件発明の白煙案内パイプと同一のものということは到底できず、控訴人の前記主張は採用の限りでない。
また、控訴人は、本件製品の白煙噴出孔14は、本件発明の白煙案内パイプと目的も作用効果も同一であり、当業者であれば自由に設計変更できる程度のものであるとして、予備的に、本件製品の構成(5)は、本件発明の構成要件(5)と均等である旨主張するが、前掲甲第一号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明中には、原判決理由指摘の四個所(本件特許公報2欄三七行目ないし3欄一一行目、4欄一八行目ないし二〇行目、同欄二四行目ないし三一行目、同欄四二行目ないし5欄三行目)の記載(原判決一七丁表三行目ないし一八丁表五行目をここに引用する。)のあることが認められ、白煙案内パイプを設ける構成をとることによる作用効果が種々強調されていることが認められる(特に、後二者の4欄二四行目ないし三一行目及び同欄四二行目ないし5欄三行目の記載は、実施例についての記載ではなく、本件発明そのものの作用効果についての記載であり、しかも、最後の4欄四二行目ないし5欄三行目には、「漸次径小」とした白煙案内パイプを設けることにより白煙が円滑に導出される等の作用効果がある旨記載されている。)から、本件発明にいう白煙案内パイプが先細り(漸次径小)のものに限定されるかどうかは措くとしても、右のように、白煙案内パイプを設けることが必須の構成要件として特許請求の範囲に明記されたうえ、白煙案内パイプを設ける構成をとることの作用効果が種々強調され、先細り(漸次径小)の白煙案内パイプを設けることの作用効果まで本件発明そのものの作用効果として記載されていることに照らすと、本件発明については、白煙案内パイプを設けることを絶対の要件とし、白煙案内パイプを備えないものは、意識的に、本件発明に係る特許権による保護の対象外とし、これに対しては権利行使をしないものとして、出願人(控訴人)によつて特許出願されたものと解すべきである。
よつて、控訴人の右均等の主張も、その余の点について判断するまでもなく、失当といわなければならない。
結局、本件製品は、少なくとも、本件発明の構成要件(5)を充足するものではなく、また、これと均等ということもできないから、その余の点について対比、検討するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属しないものといわなければならない。したがつて、本件製品が本件発明の技術的範囲に属することを前提に本件製品の製造、譲渡等の差止め(並びに本件製品及びその半製品の廃棄)を求める控訴人の請求は、前提を欠き、理由のないことが明らかである。
五 よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとする。